生産管理はエクセルでどこまでできる?やめる目安と移り先の選び方

受注一覧、工程表、在庫表、作業日報。生産管理をExcelで回している中小製造業は今も多く、それ自体は決して悪いことではありません。

一方で、「そろそろシステムに替えたほうがよいのでは」と感じながら、決め手がないまま使い続けている会社も多いのではないでしょうか?

先に答えを書くと、管理する人が1人か2人で、受注を一覧で見渡せるうちは、Excelで十分に回ります。限界が来るのは、複数の人が同時に表を更新し、転記や計画の組み直しが増えてきたときです。

ただ、その境目は従業員の数や売上では決まりません。目安になるのは、現場で起きている症状です。

この記事では、Excelで続けてよい範囲と表の組み方、やめて専用ソフトに切り替える目安を、よく起きる症状から整理します。脱エクセルの前に整えておくことと、生産スケジューラなども含めた移行先となるシステムの選び方もまとめました。

当社では、生産スケジューラの検証のために、架空の工場の受注20件をExcelで手で組むシートを作りました。部品表の書き直しをAIに任せる検証もしています。

そこで分かった、Excelで手間がかかる所と、AIで補える所も具体的に紹介します。

この記事で分かること
  • 生産管理をExcelで続けてよい範囲と、表の組み方
  • Excelの生産管理をやめる目安と、限界になる理由
  • 脱エクセルの前に整えておくこと
  • 症状に合う移行先の選び方
目次

Excelの生産管理をやめる目安

Excelをやめるかどうかは、次の表の症状で判断するのが確実です。当てはまる症状が多いほど、専用ソフトに切り替える時期が近いと考えてください。

起きている症状原因判断の目安
同じファイルを同時に開けず、待ちや上書きが起きる複数人での更新切り替える時期
受注一覧と工程表の数字が合わない転記の多さ切り替える時期
特急が入るたびに工程表を組み直している計画を人が手で組む切り替える時期
進み具合を聞かれても、すぐ答えられない実績の入力が遅れる整えてから判断
表を直せる人が社内に一人しかいない数式・マクロの属人化切り替える時期
案件の原価が月末にならないと分からない実績の集計が手作業整えてから判断
受注が少なく、管理する人も一人だけ─続けてよい

「切り替える時期」の症状が二つ以上あれば、専用ソフトを比べ始める時期と考えてよいでしょう。「整えてから判断」の症状だけなら、後で紹介するExcelの整え方で改善することもあります。

久野

Excelをやめるかどうかより先に、どの症状で一番困っているかを書き出してみてください。困りごとの中心が分かると、選ぶシステムの種類も決まります。

Excelで生産管理が回っている会社の形

Excelの生産管理が悪いわけではありません。受注の数が少なく、管理する人が限られているうちは、手軽で費用もかからない優れた方法です。

まずはよくある組み方と、続けてよい範囲を確認します。

よくあるシートの組み方

中小製造業のExcelの生産管理は、次の四つのシート(またはファイル)でできていることがほとんどです。

  • 受注一覧:注文ごとに品名・数量・納期・単価を並べる
  • 工程表:案件ごとの工程をガントチャートの形で並べる
  • 在庫表:材料・部品の入出庫と残りの数を記録する
  • 作業日報:誰が何の作業を何時間したかを記録する

それぞれのシートは、ひとつずつなら作るのは難しくありません。手間がかかるのは、四つの間で同じ情報を書き写す作業です。

受注一覧の納期を工程表に、工程表の完成を在庫表に、と転記が増えていきます。表の数が増えるほど、転記の数も増えると考えてください。

中でも手間がかかるのは工程表です。作るときは、人が入れる列と、ほかの表や数式から出す列を分けておくと、転記と入力ミスを減らせます。

工程表の列入れ方
指示番号・品番・数量・納期受注一覧から引く
工程名・機械品番ごとの工程の順番を書いた表から引く
作業時間段取り時間 + 数量 × 1個あたりの時間で出す
開始日人が入れる(ここだけ)
必要日数・終了見込み日・遅れ数式で出す

必要日数と終了見込み日は、たとえば次の数式で出せます。1日の稼働を480分とし、休日の一覧に「休日」と名前を付けた場合の例です。

Plaintext
必要日数(I列):=ROUNDUP(H6/480,0)
終了見込み日(K列):=WORKDAY(J6,I6-1,休日)

H列が作業時間(分)、J列が開始日です。WORKDAY関数は土日と「休日」の日を飛ばして数えるので、祝日をまたぐ作業も正しい日付になります。

当社が作った手組み計画のシートも、この形にしています。画面は、後の「組み直すたびに時間がかかる」で紹介します。

Excelで続けてよい範囲

次の条件がそろっているなら、無理に専用ソフトに切り替える必要はありません。Excelのほうが早くて安い場面もあります。

  • 管理する人が一人か二人で、同時に更新することがない
  • 受注の数が少なく、一覧を見れば全体が分かる
  • 表を直せる人が二人以上いる
  • 原価を案件ごとに細かく出す必要がない

この範囲なら、Excelのまま整え方を工夫するほうが効果は大きくなります。在庫の部分は、在庫管理表をエクセルで作る方法|自動計算の関数とつまずく3つの壁の作り方が参考になります。

Excelの生産管理が限界になる理由

受注が増え、関わる人が増えると、Excelの弱いところが表に出てきます。限界になる理由は、大きく六つに分けられます。

同時に開けず上書きが起きる

社内の共有フォルダに置いたExcelは、基本的に一人ずつしか更新できません。誰かが開いている間はほかの人が書き込めず、待つか、別に保存してしまうことになります。

Microsoft 365やGoogleスプレッドシートで共同編集すれば、同時に書き込めます。ただし今度は、誰がどこを変えたかが分かりにくくなります。

関数を消されたり、行がずれたりしても、すぐには気づけません。

転記が増えて数字が食い違う

シートが分かれていると、同じ情報を何度も書き写すことになります。転記の回数が増えるほど、どこかで数字が食い違うのは避けられません。

納期の変更が工程表にだけ反映され、受注一覧が古いまま、といったずれは、出荷の直前まで気づかれないこともあります。

組み直すたびに時間がかかる

Excelの工程表では、どの作業をいつ、どの機械で始めるかを人が決めて書き込みます。同じ機械に作業が重ならないように開始日を選ぶのは、人の頭の中の作業です。

次の画面は、当社が生産スケジューラを自作したときに、比べるために作った「手組み計画」のシートです。「よくあるシートの組み方」で書いた、開始日だけを人が入れる形の工程表です。

架空の工場の受注20件を、工程ごとに分けて39行に並べています。

人が入れるのは黄色の「開始日」だけで、終わりの見込みと納期の遅れは数式で出します。それでも、このシートには同じ機械に作業が重なっていないかを見る列がなく、機械の列を見比べて避けるのは人の仕事です。

受注20件でも、行は39行になります。特急の注文が一件入るだけで、後ろの作業の開始日をまとめて書き直すことになります。

同じデータで計画を自動で組んだ記録は、OR-Toolsで生産計画を自動化する|生産スケジューラ自作の記録にまとめています。最適化で組んだ計画は、遅れた注文が0件でした。

今の進み具合がすぐ分からない

Excelの工程表は、誰かが実績を入力して初めて更新されます。現場の作業者が事務所に戻ってから入力する運用では、表に載っているのは「昨日までの状況」です。

営業や取引先から「今どこまで進んでいますか?」と聞かれるたびに、現場へ確かめに行くことになります。進み具合の確認に時間を取られるのは、表の作り方より、実績の入れ方の問題です。

作った人しか直せない

便利なExcelほど、数式やマクロが積み重なって複雑になります。作った本人しか直せない表は、その人が休んだ日や辞めた日に止まります。

社内のマクロを棚卸しして引き継ぐ方法は、Excelマクロを組んだ人が退職したあとに会社が困ることにまとめています。

中身の分からないマクロをAIに読ませて解読する方法は、退職者が残したExcelの数式・マクロをAIに解読させる方法で紹介しています。

原価が後からしか分からない

案件ごとの原価を出すには、材料費と作業時間を案件ごとに集める必要があります。Excelでは日報と仕入れの記録を月末にまとめて集計することが多く、赤字の案件に気づくのが納品の後になりがちです。

原価を早く知るには、作業の記録に案件の番号(製番)を付けて残すことが前提になります。製番の考え方は、部品表(BOM)とは?製番管理方式との関係とエクセルでの管理で詳しく説明しています。

脱エクセルの前に整えること

専用ソフトに切り替えると決めても、すぐに入れ替えられるわけではありません。切り替える前にExcelの側を整えておくと、データの移し替えが楽になり、ソフト選びの失敗も減ります。

番号と品番のルールをそろえる

生産管理システムは、受注・品目・取引先を番号で結びつけます。Excelでは同じ部品が「M8ボルト」「ボルトM8」と表記ゆれしていることがよくあり、そのままでは移せません。

  1. 品番を決める:部品・材料・製品に一つずつ番号を振る
  2. 受注に製番を振る:注文ごとに番号を付け、日報や伝票にも書く
  3. 取引先を一覧にする:社名の表記を一つにそろえる

この三つがそろっていれば、どのシステムを選んでも、CSVで取り込める形になります。

一つの表に一つの役割を持たせる

一つのシートに受注・工程・メモが混ざっていると、専用ソフトのどの項目に移せばよいかが分かりません。一行に一件、一列に一項目の形に直しておくと、移し替えの作業が大きく減ります。

結合したセルや色だけで意味を表している箇所も、文字の列に置き換えておきましょう。色で「完了」を表している表は、専用ソフトに移すと意味が失われます。

移し替えの前に、Excelのファイルは日付を付けて必ず保存しておいてください。移した後に数字が合わないとき、元の表に戻って確かめる必要があります。

移行先となるシステムの選び方

Excelからの移行先は、生産管理システムだけではありません。困りごとの中心によって、合う移行先が変わります。

種類はきれいに分かれるものではありませんが、目安として整理します。

移行先向いている会社気をつけること
クラウドの表計算(共同編集)同時に更新できないことだけが困りごと転記と属人化は残る
在庫管理システム困りごとが材料・部品の在庫に集中している工程と原価は別に管理する
生産スケジューラ計画を組む・組み直す手間が一番の困りごと受注・在庫・原価は別の仕組みで持つ
ノーコードの業務アプリ(kintoneなど)自社の流れに合わせて少しずつ作りたい作る人の負担と属人化が起きやすい
生産管理システム受注から出荷・原価までをつなぎたい自社の生産の形に合う製品を選ぶ

受注・工程・在庫・原価のうち二つ以上で困っているなら、生産管理システムを比べるのが近道です。在庫だけに困りごとが集中しているなら、先に小規模製造業の在庫管理システム比較を見てください。

移行は小さくはじめる

すべての業務を一度に専用ソフトへ移そうとすると、現場の負担が大きく、定着しないことがあります。一つの工程、または一部の案件から試し、効果を確かめてから広げるのが安全です。

クラウド型の生産管理システムには、必要な機能だけを選んで始められる製品があります。試している間はExcelと並行して運用し、数字が合うことを確かめてからExcelをやめます。

データの移し方

移し替えでは、過去のデータをどこまで持っていくかを先に決めます。すべての履歴を移すより、今動いている案件と品目のマスタだけを移すほうが早く、失敗も少なくなります。

過去の案件は、Excelのファイルを読み取り専用で残しておけば参照できます。見積りの参考に過去の案件を探したい場合は、後で検索の仕組みを足す方法もあります。

AIでサポートできる作業

Excelから専用ソフトへ移行する作業のうち、AIが手伝えるのは主に「読む」作業です。表記ゆれのそろえ直しや、古い表の項目の意味を読み解く作業は、AIに下調べをさせると早く進みます。

当社では、Excelの部品表14行を、決めた形の表に書き直す作業をAIに任せてみました。1回目ですべての行が正しく、注記と数量の食い違いなど3点を自分から指摘しました。

一方で、品番のないボルトに規格を書き足した、備考にある部品を行にしなかった、単位をすべて「個」にした、の3点は人が直しました。移し替えの下調べは任せられても、最後の確認は人に残ります。

試した手順と結果は、部品表(BOM)の記事の「部品表の書き直しをAIに任せてみる」で紹介しています。

移した後の数字が正しいかは、Excelの元の表と突き合わせて人が確かめます。AIで整えた結果をそのまま取り込まないよう、確認の手順を先に決めておきましょう。

まとめ

この記事の要点
  1. Excelをやめるかは、上書き・転記の食い違い・組み直しの手間・属人化などの症状で判断する
  2. 脱エクセルの前に、品番と製番のルールをそろえ、一行一件の表に直しておく
  3. 困りごとが二つ以上の業務にまたがるなら生産管理システム、在庫だけなら在庫管理システム、計画づくりだけなら生産スケジューラから始める

Excelの生産管理は、会社が小さいうちはよい道具です。症状が出始めたら、すぐに専用ソフトを入れるより先に、Excelの側を整えておくと、切り替えるときも続けるときも役に立ちます。

自社の生産の形に合う生産管理システムは、生産管理システム比較|中小製造業の多品種少量・受注生産に合う7製品で比べています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

1981年生まれ、名古屋出身。株式会社ニューロシンク代表。

2008年に渡独し、ベルリンで約18年間エンジニアとして活動。ドイツの国家資格である職業訓練プログラム「アプリケーション開発専門IT技術者」を修了後、医療系の自社開発企業でデスクトップ・Webアプリケーションの開発に4年間従事しました。2022年からはドイツの大手SIer「Adesso SE」で、フルスタックエンジニアとしてリードポジションを務めました。

2026年に日本へ帰国し、同年9月に株式会社ニューロシンクを設立。愛知・岐阜・三重の町工場を主な対象に、AI導入と業務システムの改善を支援しています。提案だけで終わらせず、工場に足を運んで一緒に手を動かす。そんな現場に立つAIエンジニアでありたいと考えています。

著書「AI時代の海外移住戦略」

コメント

コメントする

目次