属人化の洗い出しで町工場がつまずく理由|業務の棚卸しフォーマットと進め方

「あの人が休んだら、現場が止まってしまう」。町工場では、こうした悩みをよく耳にします。

「見積りを出せるのは社長だけ」「段取りを組めるのはベテランの職長だけ」のように、特定の人に業務や判断が集まっている状態を、属人化(ぞくじんか)と呼びます。

属人化そのものは、悪いことではありません。長く現場を支えてきた人に知識が集まるのは自然なことで、本当の問題は、その人が休んだり辞めたりしたときに、誰も代わりに動けないことです。

先に結論をお伝えすると、属人化の洗い出しは次の順番で進めます。

  1. 「この人が抜けたら困る」という人から探す
  2. その人の作業を、動作の単位まで分ける
  3. 業務の棚卸し表に、担当・代わりにできる人・頻度・型を書く
  4. 手順か判断かで分け、任せる順番を決める

あわせて、全業務を一度に書き出す、現場の工夫を壊す、ベテランを身構えさせるの三つは避けてください。多くの町工場が、この三つのどれかで洗い出しを止めてしまいます。

この記事は、従業員30人以下の製造業の経営者や後継者の方に向けて、受注・見積りを例に棚卸し表の記入例まで紹介します。

久野

棚卸し表は、最初から全部の業務を埋めなくて大丈夫です。受注・見積りのように毎日ある業務を一つ選び、動作を十行ほど書き出すところから始めてください。

この記事で分かること
  • 属人化が見えにくい理由と、「人」から探す洗い出し方
  • 業務の棚卸し表に入れる項目と、受注・見積りの記入例
  • 洗い出しでやってはいけない三つの進め方
  • 手順と判断の型で分け、任せる順番を決める方法
目次

属人化は回っている間は見えない

洗い出しに入る前に、知っておきたい性質があります。それは、属人化は外から見えにくいということです。

理由の一つ目は、仕事が順調に回っている間は、誰も困らないからです。ベテランがいつもどおり良い製品を出荷していれば、経営者も現場も、そこに課題があるとは気づきません。

問題が表に出るのは、その担当者が急に休んだときや、「辞めます」と言い出したときです。その時点では、引き継ぐ時間がほとんど残っていません。

二つ目は、属人化が静かに進むことです。ある業務を一人に任せてうまく回ると、次もその人に頼るようになり、気づけばほかの誰も手を付けられない状態になります。

そこに悪意はなく、目の前の業務を効率よく回そうとした結果です。だからこそ、日々の忙しさとは別に、時間を取って洗い出す必要があります。

業務の棚卸しで属人化を洗い出す

洗い出しには、業務の棚卸しの考え方を使います。ここでは、棚卸しとは何かを押さえたうえで、町工場で属人化を見つける手順と、棚卸し表の書き方を紹介します。

業務の棚卸しとは?

業務の棚卸しとは、社内にどんな業務があり、誰が、どれくらいの頻度と時間で行っているかを一覧にすることです。在庫の棚卸しと同じように、今あるものを数えて見える形にします。

会社全体の棚卸しは、すべての部署の業務を書き出します。一方で属人化の洗い出しは、「代わりがいない業務」を見つけることが目的なので、範囲を絞って進められます。

洗い出しは、属人化を解消する最初の段階(見える化)に当たります。解消の全体の順番と、AIに任せる前の準備は次の記事で扱っています。

業務ではなく人から探す

属人化した業務を見つけるポイントは、業務や成果物から探すのではなく、「人」を起点に見ることです。

まず、「この人が突然抜けたら、うちの現場は困る」という人を思い浮かべてください。そのうえで、役職名ではなく、その人が実際に手と頭を動かしている作業を書き出していきます。

探すときの手がかりは、次の三つです。

  • 手順がその人の頭の中にしかない(手順書がない)
  • 判断がその人の経験や勘に頼っている(基準が書かれていない)
  • 社内外からの問い合わせが、その人に集まる

一つでも当てはまれば、その業務は属人化しています。三つとも当てはまる業務は、その人が抜けたときに止まりやすいので、先に洗い出します。

分かりやすい兆しは、周りの社員の「あの人に聞かないと分からない」という言葉です。特定の人に、どんな質問が集まっているかを数えてみてください。

  • 図面のこの寸法は、どう読めばよいか?
  • この形状の加工の価格は、どう決めるか?
  • この材料は、どこから仕入れるのがよいか?
  • どの機械から順に流せば、納期に間に合うか?

質問を受けるベテランの側も、頼られているので嫌な顔をしないことが多いものです。そのため外からは「現場が円滑に回っている」ように見え、問題が隠れやすくなります。

作業を動作の単位まで分ける

業務を書き出すときは、粒度(大きさ)をそろえることが欠かせません。

「受注対応」のような大きな単位でまとめると、どこが属人化しているのかが見えなくなります。次のように、一つの動作まで分けてください。

  1. FAXやメールで届いた注文書を確認する
  2. 過去の似た案件の図面と実績を探す
  3. 加工の難しさを考えて見積り価格を決める
  4. 生産管理や受注管理のシステムに入力する

ここまで分けると、多くの場合、業務全体ではなく「判断が入る一つの工程」だけが属人化していることが分かります。

受注処理のすべてが難しいのではなく、「似た案件を探す」と「価格を決める」だけがベテランにしかできない、という形です。この部分的な見極めが、あとで仕組みやAIに任せるときの成否を分けます。

棚卸し表に入れる項目

分けた動作は、表計算ソフトの一行に一つずつ書いていきます。列は次の九つあれば、属人化の洗い出しには足ります。

列書くこと書き方のコツ
業務受注・見積りなどの大きなまとまり最初は一つの領域だけにする
動作一つの手の動き、または一つの判断「〜する」で終わる一行にする
担当今その動作をしている人役職ではなく名前で書く
代わりにできる人担当が休んだ日に代われる人いなければ「なし」と書く
頻度毎日・週・月・年年に一度の作業も入れる
1回の時間おおよその所要時間目安でよい
属人化高・中・低代わりがいない、その人に聞かないと進まないものは「高」
型手順か判断かやり方を知っているだけなら手順、決めることなら判断
次の手手順書にする・AIに任せる・AIの下ごしらえ・人が決める型と属人化の度合いを見て、あとで決める

「代わりにできる人」の列が「なし」の行が、属人化している業務の候補です。頻度と1回の時間を書いておくと、その人が抜けたときにどれだけの作業が止まるかも見えてきます。

受注・見積りの記入例

受注・見積りの業務を、この表で書き出した例です。担当や属人化の度合いは、会社によって変わります。

スクロールできます
動作担当代わりにできる人頻度1回の時間属人化型次の手
FAXの注文を読み取る事務職長毎日10分低手順AIに任せる
電話の注文を聞き取る職長なし毎日15分中手順手順書にする
過去の似た案件を探す社長なし毎日20分高判断AIに任せる
材料と工数から価格を決める社長なし毎日30分高判断AIの下ごしらえ
納期を判断する職長なし毎日15分高判断AIの下ごしらえ
受けるか断るかを決める社長なし週数回10分高判断人が決める
見積書を作成する事務営業毎日15分低手順AIに任せる
見積りを承認して送る社長なし毎日5分中判断人が決める
年に一度、単価表を見直す社長なし年1回半日高判断人が決める

数字は書き方の例です。「AIの下ごしらえ」は、AIが材料をそろえて案を出し、決めるのは人という任せ方を指します。

「判断」の型で、属人化が「高」の動作ほど、書き出して残す価値が大きくなります。表の上から三つ目と四つ目のように、社長にしかできない判断が毎日発生している行は、先に手を付ける候補です。

毎日の作業だけを書くと、月末や年に一度の作業、例外が起きたときの対応が抜けます。記入例の最後の行のように、たまにしかない作業も一行ずつ入れ、業務が変わったときは書き足してください。

洗い出しでやってはいけない進め方

業務の洗い出しには、多くの会社が同じようにつまずく落とし穴があります。正しい手順を知っていても、ここで止まると洗い出しは先に進みません。

特に避けたいのは、次の三つの進め方です。

全業務を一度に書き出そうとする

一つ目は、最初から完璧を目指しすぎることです。棚卸しを始めると、「あの業務も」「この業務も」と対象が広がりやすくなります。

数十から数百行の表を前にして、どこから手を付ければよいか分からなくなり、そこで止まってしまう会社が少なくありません。

対策は、最初は「受注・見積り」の一領域だけに絞ることです。毎日発生するため成果が見えやすく、自動化やAIの効果も実感しやすい領域です。

ここで一つ成果を出してから、ほかの領域へ広げれば十分です。

標準化の名目で現場の工夫を壊す

二つ目は、やり方の統一を急ぎすぎることです。「人によってやり方がばらばらだから、すぐにそろえよう」という掛け声は、正しく聞こえます。

しかし現場の背景を見ずに進め方を押し付けると、これまでうまく回っていた現場の工夫や暗黙の了解まで壊してしまいます。現場には、「なぜそのやり方をしているのか」という理由があるからです。

対策は、属人化していて周りが困っている部分だけを扱うことです。今うまく回っている業務には手を加えず、そのまま残してください。

ベテランを身構えさせる

三つ目は、見落とされやすいものの、影響が最も大きい失敗です。業務を聞き取る相手のベテラン社員が、心理的に身構えてしまうことです。

これは作業の手順ではなく、人の気持ちの問題です。ここを解きほぐさない限り、どんなツールや手法を持ち込んでも、判断の中身は出てきません。

ベテランに協力してもらう伝え方

「あなたしかできない業務を洗い出させてください」と言われたベテランは、「自分の仕事や居場所がなくなるのではないか」と感じます。

長年頼りにされてきた人にとって、ノウハウを出させてAIや若手に置き換えると聞けば、良い気分はしません。表立って反対はしなくても、「見れば分かるよ」「勘だから言葉にできない」と、判断の核心を話してくれなくなります。

これは人として自然な反応で、ベテランを責めるのは筋違いです。見直すべきは、この気持ちに配慮せずに進める経営側の姿勢です。

負担を減らすためだと伝える

ポイントは、取り組みの目的の伝え方を変えることです。ノウハウを取り上げるのではなく、「あなたにしかできない負担を減らすため」だと伝えてください。

  • 毎日の単純な問い合わせ対応が減れば、難しい案件や高度なものづくりに時間を使える
  • 休みが取りやすくなり、体調を崩したときも現場に迷惑がかからない

このように、ベテラン本人にとっても働きやすくなる取り組みであることを、丁寧に説明することが大切です。

ベテランを社内の先生にする

もう一つの方法は、ベテランに若手やAIを育てる「先生」の立場になってもらうことです。判断の基準を書き出す作業は、ベテランが培ってきた技術を、会社の財産として受け継ぐ取り組みでもあります。

依頼するときは、たとえば次のように伝えます。

「〇〇さんの長年の経験と判断を、会社の財産として残したいんです。ぜひ力を貸してください」

敬意を込めて頼むことで、取り組みの意味が変わります。「自分の仕事が認められた」という実感が、協力につながります。

久野

聞き取りの場では、正解を聞き出そうとするより、記入例の表を一緒に埋めてもらう形にすると話しやすくなります。「なぜこの値段にしたんですか?」と、一つの案件の理由から聞いてみてください。

手順の属人化と判断の属人化を分ける

ベテランの協力が得られたら、洗い出した動作を棚卸し表の「型」の列で、手順と判断に分けます。型によって、引き継ぎ方がまったく違うからです。

手順の属人化は手順書や動画で移す

手順の属人化とは、作業の手順やファイルの保存場所、システムへの入力方法など、やり方そのものを特定の人しか知らない状態です。

これは比較的かんたんに解決できます。作業を文章で書き出すか、作業している画面や手元をスマートフォンで撮影すれば、ほかの社員でも同じようにできる手順書になります。

この領域には、無理に高価なAIを入れる必要はありません。手順書の作り方は、業務マニュアルの作り方で紹介しています。

判断の属人化はAIの下ごしらえから

扱いが難しいのは、判断の属人化です。町工場では、たとえば次のような判断が当たります。

  • 図面を見て、加工の工程と価格を決める
  • 納期と工場の稼働状況を見て、仕事を割り振る
  • 材料と加工の相性を見て、不具合を前もって見込む

こうした判断は経験の積み重ねによるもので、本人に「どうやって決めているんですか?」と聞いても、「見れば分かる」と返ってきがちです。言葉にしにくいため、ふつうの手順書では引き継げません。

AIが役に立つのは、この判断の属人化です。過去の判断の実績と、判断のときに見ている要素(材質・数量・納期など)を書き出しておけば、AIに似た案件を探させたり、判断の材料をそろえさせたりできます。

ただし、AIが担うのは材料をそろえて案を出すところまでで、決めるのは人です。ベテランの見積りや段取りの判断を、どこまでAIに残せるかは次の記事で扱っています。

任せる順番を頻度と難しさで決める

型で分けたら、どの動作から手を付けるかの順番を決めます。

大切なのは、一度にすべてを変えようとしないことです。一気に手を出すと現場が混乱し、「前のやり方のほうが早い」と元に戻ってしまいがちです。

頻度と判断の難しさの二軸で並べる

順番は、棚卸し表の「頻度」と、判断の難しさの二つの軸で決めます。

判断がやさしい判断が難しい
毎日のように発生する最初に手を付ける効果は大きいが、最初の成果のあとに回す
たまにしか発生しない急がなくてよい後回し(今のやり方のまま)

最初に選ぶのは、毎日発生し、判断の幅が狭い(決まりにしやすい)業務です。ここを楽にできると、短い期間で現場が効果を実感でき、次に進む力になります。

反対に、判断が難しい業務は、効果が大きく見えても最初に選ばないでください。いきなり難しいところで失敗すると、「やっぱりAIは現場で使えない」という不信感が広がりやすいからです。

製造・建設・物流の30業務を始める順に並べた一覧は、業務自動化でできること一覧にまとめています。

AIに向くかを二つの基準で確かめる

順番が決まったら、その業務がAIに向いているかを確かめます。属人化しているからといって、すべての業務がAIに向くわけではありません。

  • 入力の形が決まっているか(FAX、PDF、決まった形式のメールなど)
  • 判断の基準を、言葉や数値で説明できるか

入力の形が決まっていれば、AIは情報を正しく受け取れます。基準があいまいでも、どの要素(材質・数量・納期など)を見て判断しているかを書き出せれば、AIに材料をそろえさせられます。

一方で、取引先とのその場のやり取りで決まる交渉や、毎回条件がまったく違う一品物の判断は、今は人が直接対応するほうが向いています。

判定の手順は、AIに向く業務・向かない業務の見極め方で紹介しています。

小さく始めて隣の工程へ広げる

まずは一つの小さな業務で、うまくいく形を作ってください。一つの業務で成果を確かめてから、隣の工程へ広げます。

遠回りに見えますが、この小さく始めて広げる進め方が、現場の混乱を防ぎ、成果を出す近道です。全社で一度に入れようとすると、途中で現場の反発に遭いやすくなります。

洗い出した後の次の一手

棚卸し表ができ、任せる順番とAIへの向き不向きが見えてきたら、会社の目的に合わせて次の一手に進みます。

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見積りや受注入力の手間を今すぐ減らしたい受注・見積りの自動化の進め方を決める金属加工の受注・見積りをAIで自動化
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FAXや日報の手入力をやめる仕組みは手入力をやめる業務自動化の設計で、過去の似た案件を引いて見積りを下書きする仕組みは見積りを自動で下書きする設計で紹介しています。

まとめ

この記事の要点
  1. 属人化は現場が回っている間は見えないため、「この人が抜けたら困る」という人から探し、作業を動作の単位まで分ける
  2. 棚卸し表には担当・代わりにできる人・頻度・型を書き、最初は受注・見積りの一領域に絞る
  3. ベテランには負担を減らすためと伝えて先生になってもらい、手順は手順書に、判断はAIの下ごしらえから任せる

業務の洗い出しは、AIやシステムを入れるための土台づくりです。ここがあいまいなまま外部に相談すると、一般的なシステムを提案され、現場で使われない結果になりかねません。

そして何より、現場を長年支えてきたベテランの気持ちを置き去りにしないことです。技術への敬意と丁寧な説明から始めることが、属人化から抜け出す一番の近道です。

当社は、愛知・岐阜・三重の中小製造業を中心に、受注・見積りのAI化をお手伝いしています。「どこが属人化しているのか分からない」という段階からのご相談も、30分の無料オンライン面談でお受けしています。

製造業のAI活用を受注・見積りから始める進め方は、次の記事にもまとめています。

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この記事を書いた人

1981年生まれ、名古屋出身。株式会社ニューロシンク代表。

2008年に渡独し、ベルリンで約18年間エンジニアとして活動。ドイツの国家資格である職業訓練プログラム「アプリケーション開発専門IT技術者」を修了後、医療系の自社開発企業でデスクトップ・Webアプリケーションの開発に4年間従事しました。2022年からはドイツの大手SIer「Adesso SE」で、フルスタックエンジニアとしてリードポジションを務めました。

2026年に日本へ帰国し、同年9月に株式会社ニューロシンクを設立。愛知・岐阜・三重の町工場を主な対象に、AI導入と業務システムの改善を支援しています。提案だけで終わらせず、工場に足を運んで一緒に手を動かす。そんな現場に立つAIエンジニアでありたいと考えています。

著書「AI時代の海外移住戦略」

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