「うちの社員、ChatGPTで議事録を要約させていたみたいなんです」。先日、ある経営者の方からこうしたご相談をいただきました。
本人に悪気はなく、むしろ効率化のためによかれと思って使っていたそうです。ただ、会社として使ってよいと認めた覚えはありません。
このように、会社が認めていない生成AIを、社員が自分の判断で業務に使っている状態を「シャドーAI」と呼びます。
ChatGPTだけでなく、ClaudeやGeminiなど無料で使えるツールはいくつもあり、どれが使われていてもおかしくありません。
先に答えをお伝えすると、シャドーAI対策は禁止ではなく、次の順に「安全に使える道」を用意することです。
- 責めないと伝えてから、使い方を把握する
- 顧客情報や社外秘を入れていた場合だけ確認する
- 会社で契約した法人プランへ移す
- 使ってよい範囲を暫定のルールで早めに示す
- 見直しと教育を続ける
使っていたと分かっただけなら、顧客に迷惑をかけたわけでも、情報が漏れたと分かったわけでもありません。必要なのは犯人捜しではなく、正しい使い方を伝えることです。
この記事は、すでに使われていて対応に困っている会社に向けた内容です。これからルールを一から作りたい方は、先に生成AI利用ガイドラインの作り方をご覧ください。
使っていたと分かっても、最初の一言で責めないでください。社員が正直に話してくれるかどうかで、その後の対応のしやすさが大きく変わります。
- シャドーAIとは何か、生まれる理由とリスク
- 全面禁止が逆効果になる理由
- 使用に気づいたときの進め方と見つけ方
- 法人プランへ移すときの各社の違い
シャドーAIとは?生まれる理由とリスク
シャドーAIは、会社が認めていないクラウドやアプリを使う「シャドーIT」のうち、生成AIの分を指す言葉です。ブラウザを開けばすぐ使え、無料で始められるため、シャドーITよりも広がりやすい面があります。
エルテスが2026年1月に会社員300人に行った調査では、業務で生成AIを使っている人の約5人に1人が、会社の認めていないツールを使っていました(エルテスの調査)。
シャドーAIが生まれる理由
シャドーAIを、社員の悪意やルール違反として捉えないことが大切です。無断で使う人の多くは、目の前の仕事を早く終わらせたい、もっとうまくやりたいという前向きな理由で使っています。
現場でよく聞くのは、次のような声です。
- 長いメールのやりとりを要約させれば、数分で論点がつかめる
- とっさに出てこない丁寧な言い回しを提案してもらえる
- Excelの関数の書き方をその場で教えてもらえる
どれも、誰かに迷惑をかけようとして使っているわけではありません。シャドーAIは、現場に生成AIを使いたい仕事があることのサインです。
会社の側にも理由があります。多くの中小企業では、生成AIについて禁止も、使ってよい範囲も示してこなかったからです。
社員は「便利だから使う」という自然な判断をしただけで、伝えていない決まりは破りようがありません。ルールのない状態を放置してきたことは、会社が引き受ける課題だと考えると、落ち着いて対応できます。
シャドーAIのリスクと事例
心配すべきなのは、使ったことよりも、会社から見えないところで使われていることです。主なリスクは次の三つです。
- 入れた情報が外に出る(情報漏えい)
- 顧客の個人情報を扱う決まりに反するおそれ
- 誤った出力を確かめずに使ってしまう
よく知られた事例は、韓国のSamsungです。2023年4月に社員が社内のソースコードをChatGPTに入力していたことが分かり、会社のパソコンで生成AIを使うことを一時的に制限しました(CNBCの報道)。
IBMの2025年の調査(世界600組織)では、5社に1社がシャドーAIによる情報漏えいなどの被害を報告しています。シャドーAIの利用が多い組織は、少ない組織より被害の費用が平均で67万ドル高くなりました。
同じ調査で、シャドーAIが関わった事案では個人情報が漏れた割合が65%と、全体の53%より高くなっています(IBMの発表)。
全面禁止が逆効果になる理由
生成AIの利用に気づいた経営者がまず考えるのは、「とりあえず禁止して止めよう」という対応です。お気持ちはよく分かりますが、禁止にはいくつもの落とし穴があります。
禁止しても見えない場所へ移るだけ
AIの便利さを知った人は、禁止されたからといって元のやり方には戻りません。多くの場合、個人のスマートフォンや私用のアカウントへ、使う場所が移るだけです。
会社で契約する法人向けプランは、入力した内容を初期設定では学習に使わないと各社が公式に示しています。一方で私用のアカウントは、学習に使う設定になっているかも、何を入力したかも、会社からは確かめられません。
社員が辞めた後に私用アカウントに残った会話の履歴も、会社からは消せません。
つまり、禁止した会社のほうが、ルールを決めて許可した会社よりも危ない経路で情報が外に出やすくなります。
先ほどのエルテスの調査でも、社内に規程が「ある」「策定中」と答えた人は会社が認めたツールを使い、「ない」と答えた人は認めていないツールを使う傾向がありました。
ルールがあるかどうかが、安全な使い方との分かれ目になっています。
処罰から入ると実態が見えなくなる
禁止とセットになりがちなのが、使った社員を処罰するという考え方です。これも逆効果になりやすい対応です。
処罰されると分かっていれば、社員は正直に「使っていました」とは言いません。何を入力したのか、どのツールを使ったのかという、いちばん知りたい情報が出てこなくなります。
実態をつかむことが対応の第一歩なのに、その入り口を会社が自分でふさぐことになります。
現場の効率化を手放すことになる
社員がAIを使い始めたのは、その業務に時間を短くしたり質を上げたりする余地があったからです。禁止することは、その効果をそのまま捨てるという選択でもあります。
たとえば、1時間かけて書いていたお客様への案内文が、AIにたたき台を作らせることで短い時間で仕上がるようになっていたとします。禁止すれば、その短くなった時間を元に戻すことになります。
競合他社が生成AIで生産性を上げるなかで、自社だけが禁止で立ち止まれば、情報漏えいとは別の意味での損失になります。
問題はAIを使ったことではなく、無防備に使われていることです。蛇口を閉めるのではなく水漏れしている配管を直す、という考え方が、次に紹介する進め方の出発点になります。
使用に気づいたときの進め方
社員が生成AIを使っていたと分かっても、まずは落ち着いてください。ただ使っていただけなら、ルールを示して正しい使い方を伝えるだけで十分です。
機密情報や顧客情報を入力していた形跡がある場合だけ、確かめておきたいことが増えます。状況の軽重に応じて進められるよう、順を追って整理します。

まずは自社の姿勢を表明する
最初にやることは、対策そのものより前の「姿勢の表明」です。社内に向けて「これまでの利用は問題にしません。まずは使い方を教えてください」と伝えます。
処罰しないと約束して、はじめて社員は安心して申告できます。これまでルールを示してこなかった以上、過去の利用をとがめる理由はありません。
伝えるときは、「会社として安全にAIを使える環境を整えたいので、今の使い方を教えてほしい」と目的を添えると受け取ってもらいやすくなります。まずは安心して申告できる空気を作ることが先決です。
どう使われているかを把握する
責めない姿勢が伝わったら、誰が、どのツールで、どんな業務に、どんな情報を使っているかをざっと把握します。大がかりな調査はいらず、簡単なアンケートやヒアリングで十分です。
聞くことは次の三つです。
- 使っているツールの名前
- 主な使い道
- 顧客情報や社外秘を入力したことがあるか
この三つが分かれば、いま手を打つべきことがあるかの見当がつきます。ほとんどの場合は文章の下書きや要約に使っている程度で、特別な対応はいりません。

注意が必要なのは、一般の社員だけではありません。GRAS Groupが2026年4月に生成AIを業務で使う478人に行った調査では、会社が認めていないAIに機密情報を入力した人の割合は、課長・部長クラスが37.5%で、一般社員の18.8%の約2倍でした(ITmediaの記事)。
把握の対象には、経営者と管理職自身も含めておきましょう。
アンケート以外で見つける方法
「会社に黙って使っていてもバレないのか」と気にする社員もいますが、会社の端末や回線、経費を通していれば手がかりは残ります。アンケートの答えと合わせて確かめたいのは、次の三つです。
- 経費精算や法人カードの明細に、AIの有料プランがないか
- 会社のパソコンのアプリやブラウザの拡張機能
- UTMやIT資産管理ツールのアクセス記録
AIの有料プランが個人の立替えで精算されていないかは、使っていないツールの棚卸しと一緒に確かめると手間が省けます。アクセス記録は、記録を取る機器やツールを入れている場合に限られます。
私用のスマートフォンや自宅の回線で使われたものは、会社からは見えません。見つけることより、申告してもらえる姿勢のほうが大切なのはこのためです。
入力した情報に応じて確認する
ここから先は、機密情報や顧客情報を入力していた場合にだけ必要な工程です。聞き取りでそうした入力が見当たらなければ、この節は読み飛ばして構いません。
確かめたいのは、おもに次の三つです。
- 入力した内容が学習に使われる設定になっていなかったか?
- 私用アカウントに会話の履歴が残っていないか?
- 取引先との秘密保持契約の対象になる情報が含まれていないか?
学習の設定は、個人向けのプランでも次の場所で止められます。設定を止めても過去の入力が消えるわけではないため、不要な会話の履歴は本人に消してもらいます。
| サービス(個人向け) | 学習を止める設定 | 補足 |
|---|---|---|
| ChatGPT(無料・Plus・Pro) | 設定のデータコントロールで「Improve the model for everyone」をオフ | 一時チャットは学習に使われない(最大30日保存) |
| Claude(Free・Pro・Max) | プライバシー設定の「Model Improvement」をオフ | シークレットモード(Incognito)のチャットは学習に使われない |
| Gemini(個人のGoogleアカウント) | Geminiアプリのアクティビティの「Keep Activity」をオフ | オフでも72時間は保存される。一時チャットは学習に使われない |
秘密保持契約の対象の情報が外部のAIに渡っていた場合は、取引先への報告が必要かを判断します。どの情報までAIに渡してよいかは、生成AIに社内データを渡していい範囲で整理しています。
顧客の個人情報を入れていた場合は、個人情報保護委員会の注意喚起(2023年6月2日)も確かめておきます。
本人の同意なく個人データを入力し、それが回答の出力以外の目的で扱われると、法律に違反するおそれがあるとされています(個人情報保護委員会の注意喚起)。
顧客名簿をそのまま貼り付けて整理させた、見積書のPDFを読み込ませて要約させた、といった使い方が当てはまりうる例です。判断に迷う場合は、弁護士などの専門家に相談しましょう。
シャドーAIを安全な利用に切り替える
使い方の実態が見えたら、シャドーAIを会社の正式な業務ツールへ切り替えていきます。「禁止ではなく統制」は、この切り替えのことです。
私用アカウントから法人プランへ移す
いちばん効果が大きいのは、私用のアカウントから、会社で契約した法人向けプランへ移すことです。法人向けプランは入力した内容を初期設定で学習に使わず、管理者がメンバーの追加や削除を一か所でできます。
料金・仕様は2026年9月時点の公式情報です。
| サービス | 法人向けプラン | 入力内容の学習 | 管理の機能 | 料金(1人・月) |
|---|---|---|---|---|
| ChatGPT | ChatGPT Business(旧Team) | 学習に使わない | メンバーと権限の管理、SSO、利用状況の確認 | 年払い20ドル・月払い25ドル(2人から) |
| Claude | Claude Team | 初期設定で学習に使わない | 一か所での請求と管理、SSO。監査ログはEnterprise | 年払い20ドル・月払い25ドル(2人から) |
| Gemini | Google Workspace(Business・Enterprise) | 許可なくドメインの外で学習に使わない | 管理者が監査ログでGeminiの利用を確かめられる | Workspaceの料金に含まれる(機能はプランで違う) |
ChatGPTとClaudeの料金は、標準の席の料金です。利用量の多い人向けに、年払い100ドル・月払い125ドルの席もあります。

社員にとっても、私用のアカウントで後ろめたく使うより、会社が用意した環境で堂々と使えるほうが気持ちよく仕事ができます。会社が正式なアカウントを用意することは、統制であると同時に、現場への歓迎のメッセージでもあります。
どのAIを会社の標準にするかは、次の記事を参考にしてください。

使ってよい範囲を早めに暫定で示す
法人プランへ移すのと並行して、「この範囲なら使ってよい」という線引きを社員に示します。完璧なルールができるまで待つ必要はありません。
待っている間にも、シャドーAIの利用は続くからです。たとえば次のような短いルールでも、社員は安心して正式な使い方へ移っていきます。
- 使うのは会社が用意したツールだけ
- 顧客情報や社外秘は入力しない
- メールの下書きや文章の要約に使うのはOK

この暫定ルールは、あくまで出発点です。落ち着いたら、漏れのない正式なガイドラインへ育てていきます。
ガイドラインに入れる項目と条文の例は、次の記事でまとめています。

一時対応で終わらせず統制を続ける
法人プランと暫定ルールが決まれば、当面の不安はおおむね解消します。ただ、そこで手を止めると、数か月後に同じ問題が繰り返されます。
生成AIは変化が速く、新しいツールが次々に出てきます。禁止が一度の通知で終わるのに対し、統制は周知を続けていく取り組みだと考えてください。
見直しの周期と相談窓口を決める
一度決めた使ってよい範囲も、半年もすれば現実と合わなくなることがあります。見直す時期と、社員が迷ったときの相談先を先に決めておくと、ルールが古いまま放置されません。
決めておくことは、次の表のような簡単なもので構いません。
| 決めること | 記入例 |
|---|---|
| 見直す時期 | 半年に一度(4月・10月)と、新しいツールを入れたとき |
| 相談先 | 総務の担当者。判断に迷うものは社長が決める |
| 新しいツールの申請 | 使いたいツールの名前と使い道を相談先に伝える |
新しいツールの申請先を決めておくと、社員が自分の判断で新しいAIを使い始める前に、会社へ相談が届くようになります。申請の窓口は、シャドーAIを生まないための入り口です。
ルールと同じくらい教育に手間をかける
統制を続けるうえで、ルールと並んで大切なのが社員への教育です。
なぜその情報を入れてはいけないのか?なぜ出力をそのまま使ってはいけないのか?
理由を知らないままルールだけ渡されても、現場は面倒な決まりとしか受け取りません。短い勉強会で構わないので、リスクの実例とあわせて「なぜ」を共有する時間を設けてください。
社員がAIを使いこなせるようになれば、シャドーAIは自然と減り、ルールに沿った使い方が根づいていきます。
教材には、Claudeの開発元のAnthropicが無料で公開している講座「AI Fluency: Framework & Foundations」も使えます。内容はAnthropicのAI Fluencyのページで確かめられます。
まとめ
- シャドーAIは禁止しても止まらず、見えない場所へ移るだけ
- 気づいたら責めずに把握し、入れた情報に応じて確かめる
- 法人プランと暫定ルールへ移し、見直しと教育を続ける
社員が勝手にChatGPT、あるいはClaudeやGeminiを使っていたと分かったとき、禁止したくなる気持ちはもっともです。
ただ、本当に必要なのは利用を止めることではなく、会社から見える形にして安全な使い方へ導くことです。
まずは「これまでの利用は問題にしない」と伝え、今週中に使い方のアンケートを取るところから始めてみてください。
法人プランの契約と暫定ルールの通知は、正式なガイドラインを待たずに始められます。ガイドラインは、その後で落ち着いて作れば間に合います。
生成AI以外も含めた社内のセキュリティの基本は、IT担当がいない会社のセキュリティ対策でまとめています。


