夜中に利用者のご家族からLINEが届いたのに、担当者が気づかなかった。翌朝に返信したら「心配で眠れなかった」と言われた。
訪問介護の現場では、こうしたことが起きがちです。人手が足りない中で、24時間365日、誰かが問い合わせに張りついているのは現実的ではありません。
そこで当社(株式会社ニューロシンク)は、LINEに届いた問い合わせをAIが読み取り、返信を作って送り返す仕組みをデモとして作りました。
先に答えをお伝えすると、サービス内容や訪問日時の確認のような定型の問い合わせはAIが数秒で返し、緊急の連絡やAIが判断できない相談は担当者へつなぎます。
この記事では、介護のAI活用の一例として、LINE自動応答の仕組みと費用対効果の試算を紹介します。
料金・仕様は2026年9月時点の公式情報です。
AIに答えさせる問い合わせより先に、担当者が必ず自分で答えたい問い合わせを書き出しておくと、導入の相談が進めやすくなります。
- LINEの問い合わせにAIが答える仕組みと、LINE公式の自動応答との違い
- AIに任せる問い合わせと、担当者につなぐ問い合わせの分け方
- 個人情報をAIに渡す前に伏せる方法
- 費用と回収までの期間の試算
LINEの問い合わせにAIが答える仕組み
利用者やご家族がふだんどおりLINEでメッセージを送ると、数秒後にAIからの返信が届きます。ご家族の側で新しいアプリを入れたり、操作を覚えたりする必要はありません。
ご家族から見たやり取り
たとえば、サービス内容を尋ねるメッセージには、次のように返します。
ご家族:「訪問介護のサービス内容を教えてください」
AI:「こんにちは。訪問介護事業所のAIアシスタントです。
当事業所では、身体介護(入浴・食事・排泄のサポート)と
生活支援(掃除・洗濯・買い物のサポート)を提供しております。
詳しいご相談は担当者におつなぎすることもできます。
お気軽にお申し付けください。」
深夜0時でも土曜日でも、同じ内容の返信が届きます。
問い合わせとAIの返信は、データベースに自動で残ります。担当者は翌朝に管理画面で一覧を確かめ、人が答えるべき相談だけに対応すればよい流れになります。
LINEに届いた問い合わせの流れ
仕組みは、LINE公式アカウントの「Messaging API」を使って作っています。当社のデモでは、次の順番で処理します。
- LINEに届いたメッセージを、自動化ツールのn8nが受け取る
- AI(ClaudeのAPI)が内容を読み取り、分類して返信を作る
- 返信をLINEに送り、やり取りをデータベース(Supabase)に残す
最初に作ったときの手順は、開発記録のn8n×LINE連携でAI自動応答を作った記録にまとめています。夜間や休日も止まらずに動かすための設定は、次の記事で紹介しています。

LINE公式の自動応答との違い
LINE公式アカウントにも、自動で返信する機能があります。AIに文章を作らせるか、決めた文を返すかが大きな違いです。
| 方式 | 返し方 | 介護事業所で使うときの注意 |
|---|---|---|
| 応答メッセージ(標準) | 登録したキーワードに、決めた文を返す | 言い回しが違うと答えられない |
| AIチャットボット(β) | 登録したQ&Aから、AIが合う回答を選んで返す | 有料のチャットProオプションが要る。医療・福祉関連の業種では使えない場合がある |
| Messaging APIで生成AIをつなぐ(当社の方式) | 事業所の情報をもとに、AIが返信の文を作る | 答えてはいけない問い合わせを見分ける設計が要る |
LINEのヘルプでは、AIチャットボット(β)は機微な情報を扱う可能性があるため、医療・福祉関連などの業種では、LINE側の判断で使えない場合があるとされています(出典:LINE公式アカウント ヘルプ)。
当社がMessaging APIの上に仕組みを作っているのは、答えてはいけない問い合わせの見分け方を、事業所ごとに決められるからです。
導入前と導入後の業務の流れ
AIを入れると、担当者の仕事は「すべてに返信する」から「AIが回した相談に答える」に変わります。前後の流れを並べて比べます。
導入前は担当者がすべて手で返す
今の問い合わせ対応では、LINEが届くたびに担当者が内容を確かめ、返信を考えて送り、記録を残しています。深夜や休日でも通知が来れば気が抜けず、担当者の疲れにつながります。

- ご家族がLINEで問い合わせる
- 担当者が気づく(夜間・休日も)
- 内容を確かめて判断する(毎回手作業)
- 返信の文を一から書く
- LINEで返信する(数時間後になることも)
- 対応した内容を紙やExcelに書き写す
この運用には、次の三つの問題があります。
- 夜間・休日も担当者が対応しなければならない
- 返信までに時間がかかり、ご家族を不安にさせる
- 記録が人に頼り、引き継ぎが難しい
導入後はAIが一次対応し担当者は難しい相談だけ
AIを入れると、LINEが届いた時点でAIが内容を読み取り、数秒のうちに返信を送ります。やり取りは同時にデータベースへ残ります。

- ご家族がLINEで問い合わせる
- AIが時間帯に関係なく受け取る
- AIが問い合わせを分類する
- 定型の質問は、AIが返信してデータベースに残す
- 緊急の連絡や判断が難しい相談は、担当者に知らせる
担当者が動くのは、緊急性が高いものと、AIでは判断できないものだけです。たとえば月200件の問い合わせのうち8割をAIが返せる想定なら、担当者が対応するのは40件ほどになります。
AIに任せる問い合わせと任せない問い合わせ
AIを入れるときに多くの経営者が不安に感じるのは、「AIが間違った答えを返さないか」ということです。この不安はもっともで、どこまでAIに答えさせるかの設計で、リスクは大きく変わります。
当社の仕組みでは、AIが問い合わせを分類し、答える問い合わせと担当者につなぐ問い合わせを振り分けます。

AIが自動で答える問い合わせ
AIに任せるのは、答えが事業所の情報で決まる問い合わせです。
- サービス内容・対応エリアについての質問
- 料金・費用に関する基本的な質問
- 訪問日時・担当ヘルパーの確認
- 緊急ではない体調の変化の報告の受付
- 書類・手続きに関する一般的な質問
どこまでAIに任せるかは、聞き取りをもとに事業所ごとに決めます。「この質問だけは必ず人が答えたい」というご要望にも合わせられます。
担当者につなぐ問い合わせと返信の例文
「ヘルパーが来なかった」「体調が急変した」のような緊急の連絡や苦情には、AIが中身を答えません。決めておいた文を返したうえで、担当者に知らせます。
AIが判断できない問い合わせも、同じように必ず人につなぎます。場面ごとに返す文の例は次のとおりです。
| 場面 | 返す文の例 |
|---|---|
| 定型の問い合わせ | AIが事業所の情報をもとに答え、最後に「詳しいご相談は担当者におつなぎすることもできます」と添える |
| AIが判断できない・苦情 | 担当者に確認してご連絡します。しばらくお待ちください。 |
| 緊急の連絡 | お話くださってありがとうございます。担当者にすぐ連絡しています。緊急の場合は救急車(119)をお呼びください。 |
緊急の連絡に返す文は、AIに毎回作らせず、決めた文を返すようにしています。慌てている相手に、確実に同じ案内を届けるためです。
医療の判断を伴う相談や、つらい気持ちを訴える発言も、AIに答えさせない側に入れておくのが安全です。見分け方と、担当者への知らせ方の設計は次の記事で詳しく整理しています。

個人情報はAIに渡す前に伏せる
介護事業所に届くメッセージには、利用者の氏名や電話番号、体調のことが含まれます。当社の仕組みでは、電話番号・郵便番号・登録済みの利用者名を、外部のAIに渡す前に記号に置き換えています。
変更前:田中さんの薬を取りに行きます。電話番号は090-1234-5678です。
変更後:[USER_0]の薬を取りに行きます。電話番号は[PHONE]です。
病歴や心身の状態は、取得や第三者への提供に原則として本人の同意が要る「要配慮個人情報」に当たります。
個人情報保護委員会と厚生労働省は、訪問介護などの介護関係事業者も対象にした「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を出しています(令和8年4月に一部改正。出典:個人情報保護委員会)。
ガイダンスでは、個人情報の扱いを外部に任せるときに、委託先を選び、その扱いを監督することを求めています。AIの仕組みを業者に頼むときも、この目線で選んでください。
社内のどの情報をAIに渡してよいかの決め方は、生成AIに社内データを渡していい範囲で整理しています。自社の運用がガイダンスに沿っているかの判断は、専門家に確かめてください。
訪問介護事業所で費用対効果を試算する
費用対効果がどのくらいかを、30人規模の訪問介護事業所を想定して試算します。件数や時間は想定の数字なので、自社の数字に置き換えて見てください。
減らせる対応時間
問い合わせの件数と、1件あたりの対応時間を次のように想定しました。
| 問い合わせの種類 | 月間件数 | 1件あたりの対応時間 | 月間合計時間 |
|---|---|---|---|
| サービス内容・料金の質問 | 60件 | 5分 | 5時間 |
| シフト・訪問日時の確認 | 80件 | 5分 | 6.7時間 |
| 緊急でない相談・連絡 | 40件 | 10分 | 6.7時間 |
| 夜間・休日の問い合わせ | 20件 | 15分 | 5時間 |
| 合計 | 200件 | ― | 約23時間 |
このうちAIが返せる割合を7〜8割と想定すると、減らせる対応時間は月16〜19時間ほどです。
人件費に直した金額
問い合わせに答えているのは、サービス提供責任者(サ責。訪問介護計画の作成やヘルパーの管理を担う責任者)が多いと想定します。
厚生労働省の「令和6年度介護従事者処遇状況等調査」では、訪問介護事業所の常勤のサ責の平均給与額は月およそ36.7万円とされています(出典:厚生労働省、ウェルミーマガジンの解説)。
月160時間で割ると、時給は約2,300円になります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 減らせる時間 | 月16〜19時間 |
| 時給に直した金額 | 約2,300円 |
| 減らせる人件費(月) | 約37,000〜43,000円 |
| 減らせる人件費(年) | 約44万〜52万円 |
導入と運用にかかる費用
費用は、最初の構築費と、毎月の運用費に分かれます。金額は、これまでに言われてきた相場をもとにした目安で、当社の料金ではありません。
| 費用の項目 | 金額 |
|---|---|
| 初期導入費(相場) | 30万〜50万円(1回のみ) |
| サーバーなどの運用費 | 月3,000〜5,000円 |
| Claude APIの利用料 | 月2,000〜5,000円ほど |
| LINE公式アカウント | 月0円(AIの返信を応答で送る場合) |
| 運用費の合計 | 月5,000〜10,000円ほど |
| 保守費(相場) | 月1万〜2万円(別途) |
AIの返信をMessaging APIの応答(Reply API)で送る場合、LINEのメッセージの通数には数えません。
一方で、利用者へのお知らせをプッシュで送ると通数に数えます(出典:LINE公式アカウント 料金プラン)。
| プラン | 月額(税別) | 無料の通数 | 追加のメッセージ |
|---|---|---|---|
| コミュニケーション | 0円 | 200通 | 送れない |
| ライト | 5,000円 | 5,000通 | 送れない |
| スタンダード | 15,000円 | 30,000通 | 従量課金で送れる |
スタンダードの追加メッセージの料金は、2026年10月1日から改定されます。月20万通までは1通3円、超えた分は1通2.5円(いずれも税別)です(出典:LINEヤフー for Business)。
回収までの期間
ここまでの数字で、初期導入費を何か月で取り戻せるかを計算します。保守契約を結ぶかどうかで、回収の期間は大きく変わります。
| 項目 | 保守契約なし | 保守契約あり |
|---|---|---|
| 減らせる人件費(年) | 約44万〜52万円 | 約44万〜52万円 |
| 運用費と保守費(年) | 約6万〜12万円 | 約18万〜36万円 |
| 差し引き(年) | 約32万〜46万円 | 約8万〜34万円 |
| 初期導入費を回収する期間 | 約8〜19か月 | 約11か月〜6年以上 |

保守契約ありで回収が長くなるのは、減らせる時間が少なく、保守費が高い組み合わせのときです。問い合わせの件数が多い事業所ほど、回収は早くなります。
導入したあとに、減った時間や人が直した件数をどう確かめるかは、AIエージェント導入後の運用と保守で紹介しています。
金額に表れない効果
費用のほかにも、次の効果が見込めます。
- 夜間・休日の負担が減る:担当者が休日に休みやすくなる
- 問い合わせの記録がたまる:多い時間帯や相談を後から調べられる
- すぐに返信が届く:時間帯に関係なくご家族に返せる
記録がたまると、問い合わせが集中する時間帯に合わせた人の配置や、よくある質問の案内の見直しに使えます。
よくある質問
導入のご相談でよく聞かれる質問に答えます。月額の費用は、上の「導入と運用にかかる費用」の表をご覧ください。
AIが間違った情報を返すことはないか?
医療の判断や個別の契約の内容など、AIが答えるべきでない質問には「担当者に確認してご連絡します」と返すように設定します。AIが不確かなことを言い切らないよう、指示の文面(プロンプト)で抑えます。
それでも誤りをゼロにはできないため、やり取りはすべて記録に残し、担当者が後から確かめられるようにしています。
今のLINE公式アカウントを使えるか?
はい、今お使いのLINE公式アカウントでMessaging APIを有効にして組み込みます。利用者やご家族の側の操作は変わりません。
2022年12月の応答設定の仕様変更で、Webhookと担当者が手で返すチャットを同時に使えるようになっています。AIが返した後に、担当者がLINEの管理画面から続きを返すこともできます。
音声メッセージにも対応できるか?
当社では、LINEの音声メッセージを文字に起こしてAIが答え、音声で返す仕組みも開発しました。文字を打つのが大変なご家族にも使っていただけるようにするためです。
開発の手順と、音声を扱うときの注意は次の記事にまとめています。

まとめ
- 定型の問い合わせはAIが時間帯に関係なく返し、緊急の連絡や判断が難しい相談は担当者へつなぐ
- 利用者の氏名や電話番号は、外部のAIに渡す前に伏せる
- 回収までの期間は、問い合わせの件数と保守契約の有無で大きく変わる
LINEのAI自動応答で大切なのは、AIに何を答えさせないかを先に決めておくことです。そのうえで、自社の問い合わせの件数と対応時間を書き出すと、費用対効果を見積りやすくなります。
この仕組みは訪問介護に限らず、士業事務所・不動産仲介・製造業の受注対応など、ほかの業種の問い合わせ対応にも使えます。
「自分の事業所でも使えるか確かめたい」という方は、当社にご相談ください。お話を伺ったうえで、その場でデモの概要をお見せできます。
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