退職者が残したExcelの数式・マクロをAIに解読させる方法|属人化ファイルの引き継ぎ実務

退職者がExcelで組んだ中身がわからないマクロ、「すでに誰も使用していず、正しく機能するかもわからない。」これは多くの中小企業が実際の業務で直面するありふれた悩みです。

前の記事「Excelマクロを組んだ人が退職したあとに会社が困ること」では、マクロが属人化するリスクと基本的な対策を整理しました。この記事は、その次のステップ「実際にマクロが手元に残っているとき、どうやって内容を理解し、引き継ぐのか?」という実務ガイドです。

ChatGPT、Claude、Geminiなどの生成AIが発展したおかげで、マクロの解読は、誰でも簡単にできる ようになりました。

この記事では、セキュリティ要件に応じて選べる3つの方法を、実例と一緒に説明します。


目次

マクロの「読めない」を診断する

マクロの解読を始める前に、一つ確認することがあります。それは「このマクロ付きファイルは、信頼できるものか」です。

本当に危険なマクロ付きファイルとは

マクロ付きファイルが危険になるのは、以下のようなパターンです。

【危険なケース】
❌ 取引先から突然メールで送られてきたマクロ付きファイル
❌ ウェブサイトからダウンロードしたマクロ付きファイル
❌ 作者不明のファイル共有サイトのマクロ付きファイル

【安全なケース】
✅ 社内の退職者が作ったマクロ付きファイル
✅ 同僚が作ったマクロ付きファイル
✅ 数年前から社内で使われているマクロ付きファイル
✅ 作者が明確なマクロ付きファイル

社内の人間が作ったマクロ付きファイルなら、基本的に危険ではありません。安心して使っていいでしょう。

外部ファイルの場合:確認方法

もし「外部からもらったマクロ付きファイル」の場合は、以下を確認してください:

  1. Excel を開く
  2. 「マクロが含まれています」という警告が出たら「編集を有効にしない」を選ぶ
  3. VBA Editor(Alt + F11で開く)で内容を確認
  4. 不審なコードがないか見る
  5. 必要なら、コードを削除してからマクロなしで保存

社内のマクロ付きファイルなら、この確認はスキップして問題ありません。解読に進みましょう。

検証に使用したエクセルファイル
検証に使用したマクロコード

AIで解読する3つの方法

マクロを理解するために、生成AIを使う方法は3つあります。必要となるセキュリティレベルと作業に掛かる時間のバランスを考慮して、もっとも合う方法を選んでください。

パターンA:Web版Claudeに直接貼り付ける

まず、最初に考えるのWeb版のClaude(claude.ai)のプロンプトに直接貼り付けて確認する方法です。手軽に実行できる反面、セキュリティレベルは低くなります。

手順

  1. Excel の VBA Editor を開く(Alt + F11)
  2. マクロコードをすべて選択(Ctrl + A)
  3. コピーする(Ctrl + C)
  4. claude.aiを開く
  5. 以下の内容をプロンプトとして送信
  6. Claude の応答をメモ帳に保存

このExcelマクロについて、日本語で分析してください。

【質問項目】
– このマクロが何をしているのか?
– 入力データの構造
– 関数での置き換え可能性
– セキュリティリスク

【VBAコード】
[コードを貼り付け]

回答の例

売上集計マクロを例とすると、以下のような回答がClaudeから返ってきます。

【マクロの役割】
このマクロは「売上データ」シートを読み込み、
ステータスが「完了」の行だけを集計して、
件数と合計金額を計算しています。

【処理フロー】
1. 最後の行まで自動判定
2. ステータス列が「完了」の行を検出
3. 金額を累計
4. ポップアップで結果を表示

【置き換え可能性】
はい。このロジックは SUMIF関数 で十分です:
=SUMIF(D:D,”完了”,B:B)
マクロは不要になります。

セキュリティチェックリスト

マクロを貼り付ける前に、以下の内容を確認してください:

  • 顧客名・住所が含まれていないか?
  • 売上金額・給与が含まれていないか?
  • マイナンバーが含まれていないか?
  • 銀行口座番号が含まれていないか?
  • 経営判断の材料になる数字が含まれていないか?

もしひとつでも当てはまった場合は、他の方法を検討してください。

パターンAのまとめ

項目内容
所要時間5分
精度⭐⭐⭐ 標準的。複雑なマクロは説明が不正確な場合も
セキュリティ🔴 低い。データがクラウドに送信される
コストClaude Pro は月$20、ChatGPT Plus は月$20
ドキュメント化手動。結果をメモに記録する手間
向いているケース個人、小規模チーム、セキュリティ要件が低い企業

    パターンB:Claude Coworkで自動分析

    次に紹介するのはClaude Coworkを使った方法です。Coworkを使っていない企業では、少し準備に手間がかかりますが複雑なマクロでも分析できます。

    手順

    1. デスクトップに「macro-test」フォルダを作成
    2. マクロを含むExcelファイルをxlsmフォーマットで「macro-test」フォルダに保存
    3. Claude Desktop を開き「Cowork」タブをクリック
    4. フォルダを選択 → 「macro-test」を指定
    5. プロンプトを入力
    6. Cowork が自動実行を開始 → Excel を開く → VBAを読む → Markdownファイルを作成 → 保存
    7. 完了後、作成されたmdファイルの内容を確認

    以下がプロンプトの内容です。

    このフォルダの Excel ファイルを開いて、VBA マクロコードを読んでください。

    その後、以下を含む Markdown ファイル
    (macro-analysis.md)を作成してください:

    ## マクロ分析結果

    ### マクロの目的
    [説明]

    ### 処理フロー
    [ステップバイステップ]

    ### 置き換え可能性
    [関数やSaaSで代替できるか]

    ### 改善案
    [3つ提案]

    このファイルを macro-test フォルダに保存してください。

    この方法のメリット

    • ドキュメント化が自動 ⇒ 後々、引き継ぎが楽
    • 詳細な分析 ⇒ 改善案まで出してくれる
    • 複雑なマクロに対応 ⇒ 多数の関数や条件分岐も正確に分析

    パターンBのまとめ

    項目内容
    所要時間15~20分
    精度⭐⭐⭐⭐ 詳細で正確
    セキュリティ🟡 中程度。ファイルはクラウドに送信されるが、自社で権限制御可能
    コストClaude Pro は月$20
    ドキュメント化⭐⭐⭐⭐ 自動で Markdown が生成される
    初期セットアップ必要(Claude Desktop のインストール)
    向いているケースセキュリティ要件がある程度あり、分析結果をドキュメント化したい企業

    パターンC:Google Lens で直接解析

    Google Lensというスマホ用の画像解析アプリを使って、マクロコードを直接解析してもらう方法です。

    手順

    STEP
    VBA Editorでコードを開く

    VBA Editorを開き、マクロコードを表示する

    STEP
    Google Lens で撮影

    スマートフォンまたはタブレットで Google Lens を開き、マクロコードを撮影する

    STEP
    結果を確認

    「このコードは~を実行しています」という分析結果が即座に表示される

    STEP
    (解析結果を残す場合)テキストをコピー

    Google Lens の解析結果をコピーして、Google Keep に貼り付けやテキストエディタアプリに貼り付けて保存します。メールなどを用いてファイルをPCに送ります。

    Google Lens の解析精度

    以下はGoogle Lensの解析内容の例です。

    このVBAコードは Excel シートの売上データを読み込み、
    ステータスが『完了』の行のみを集計して、
    合計金額と件数をシートの下部に追加するマクロです。
    For ループで各行をチェックし、条件に合致した場合のみ
    金額を合計しています。

    セキュリティが最高の理由

    パターンA・B:VBAコードそのものがAIに送信される
    ⇒ コードを見られる = データ構造が見られる。売上データ、顧客データの構造が推測される。

    パターンC:スクリーンショット(写真)が AI に送信される
    ⇒ 解析結果(「〇〇を計算するマクロです」という文字)のみが返されるので、実際の数字やテーブル構造は一切含まれない

    パターンCのまとめ

    項目内容
    所要時間2分
    精度⭐⭐⭐⭐ 実務的には十分
    セキュリティ🟢 最高。写真撮影のみで、テキストコピペなし
    コスト無料(Google アカウントは必要)
    ドキュメント化手動。結果を別途保存する手間
    デバイススマートフォンかタブレット
    向いているケース金融・医療・士業など、データを一切デジタル化したくない企業

    3パターンの比較表

    前項での3つのパターンを表にまとめました。

    項目Web版ClaudeClaude CoworkGoogle Lens
    所要時間5分15~20分2分
    精度⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐
    セキュリティ🔴 低い🟡 中程度🟢 最高
    ドキュメント化手動自動手動
    初期セットアップ不要ありなし
    向く企業規模小~中中~大すべて

    解読後の引き継ぎ実務

    マクロの内容が理解できたら、次はその内容を次世代へと引き継ぎします。ここがもっとも大事な部分です。解読しただけで終わると、また属人化の悪循環に陥ります。

    Excel のコメント機能で記録する

    VBA コード内にコメントを追加します。

    ‘ =====================================
    ‘ 月次売上集計 Macro
    ‘ 作成者:△△△
    ‘ 最終更新:2026年〇月〇日
    ‘ 目的:完了ステータスのみを集計
    ‘ 入力:売上データシートの列A~D
    ‘ 出力:完計結果をシート下部に追加
    ‘ =====================================
    Sub 月次売上集計()
    ‘ 処理開始
    End Sub

    動作確認・テストをする

    マクロを実行してみて、動作を確認します。以下のような項目をチェックします。

    • テストデータで実行して、結果が正しいか確認
    • 異なる件数(0件、1件、100件)で試す
    • エラーが出ないか確認
    • 計算結果が手計算と一致しているか検証
    • 他のシートに影響していないか確認

    テスト結果をスプレッドシートに記録しておくと、後で「前回はうまくいった」という証拠になります。


    マクロの廃止と置き換え

    マクロが何をしているかわかったら、次はこのマクロが本当に必要かどうかを判定して、マクロの廃止・置き換えを検討します。

    マクロを維持すべきか、廃止すべきか

    マクロの特徴を分析して、マクロが今後も必要であるかどうかを検討します。以下のような判定基準で対応を考えるといいでしょう。

    マクロの特徴判定対応
    複雑な条件分岐がある✅ 維持コメント追加で引き継ぎ
    複数シート間の自動連動✅ 維持定期的なテスト・ドキュメント化
    SUMIF で代替可能❌ 廃止関数に置き換え(マクロ削除)
    年1回だけ使う❌ 廃止手動処理か SaaS に置き換え
    他のツール(RPA など)で実装済み❌ 廃止重複を削除
    セキュリティリスクがある❌ 廃止即刻削除・代替手段検討

    関数での置き換え例

    マクロを関数に置き換える場合はエクセル表のセルを書き換えます。この場合はわずか1行の変更で完結します。

    【元のマクロ】
    Sub 売上集計()
    完了ステータスの行のみ合計
    結果を表示
    End Sub

    【置き換え後】
    =SUMIF(D:D,”完了”,B:B)

    このような置き換えでは、以下のようなメリットがあります。

    • 属人化しない(誰でも関数は読める)
    • バグが少ない(Excelが計算を保証)
    • メンテナンス不要

    業務管理ソフトへの置き換えパターン

    マクロの内容が「データ集計」ならば、クラウド会計・在庫管理システムを使って代替できる場合があります。

    勤怠集計マクロ
    ⇒ 勤怠管理 SaaS(ジョブカン・マネーフォワード勤怠)に置き換え

    売上集計マクロ
    ⇒ クラウド会計(freee・マネーフォワード)で自動集計

    在庫集計マクロ
    ⇒ 在庫管理システムに置き換え

    まとめ

    退職者が残したマクロは、もう負の遺産ではありません。次の3つの方法で、誰でも解読することができるようになりました。

    【時間重視】
    → パターンC(Google Lens で2分)

    【ドキュメント化重視】
    → パターンB(Claude Desktop で自動化)

    【セキュリティ不要】
    → パターンA(claude.ai で5分)

    解読したら、次は引き継ぎです。マクロの役割をコメントに残すことで、次の世代も困りません。

    そして最後は「判断」。本当に必要なマクロなのか、エクセル関数や他の業務ソフトで置き換えられないのかを検討する。この3ステップでマクロの属人化は着実に減っていきます。

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    この記事を書いた人

    1981年生まれ、名古屋出身。

    2008年よりドイツ・ベルリンに在住。
    ドイツの国家資格である職業訓練プログラム「アプリケーション開発専門IT技術者」を修了後、医療系自社開発企業にてデスクトップ・Webアプリケーションの開発に4年間従事。
    2022年よりドイツの大手SIer「Adesso SE」にて、フルスタックエンジニアとしてリードポジションを務める。

    2026年6月、AIエージェントと業務アプリ開発を軸とする株式会社ニューロシンクを設立。2027年に日本へ帰国し、日本の中小企業へのAI導入支援を本格的に開始予定。

    著書「AI時代の海外移住戦略

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