「ChatGPTにエクセルの売上データを集計させたら、まったく違う金額が返ってきた」という話から、「AIは結合セルや複雑な表が苦手」と聞いたことのある方は多いと思います。当社も、しばらくはそう考えていました。
そこで、現場で自己流に作り込まれたエクセル、いわゆる「神Excel」(紙への印刷を前提に、セルの結合や色分けで作り込んだ表)を用意し、ChatGPTに読み込ませて集計させてみました。
先に結果をお伝えすると、当社が仕込んだ仕掛けのほとんどを、ChatGPTは見抜きました。ただ一つ答えが食い違ったのが未入金の合計で、その原因はAIではなく、矛盾を抱えたファイルの側にありました。

この記事では、検証の中身と結果に加えて、AIが読めるようになった今も表を整える理由を紹介します。
ChatGPT・Claude・Gemini・Copilotでエクセルを読み込むときの条件もまとめました(仕様は2026年9月時点の公式情報です)。
- 結合セル・色分け・表記ゆれだらけのエクセルを、ChatGPTがどこまで読めたか
- 未入金の合計だけ答えが割れた理由
- AIが読めても、表を整えたほうがよい理由
- ChatGPT・Claude・Gemini・Copilotでエクセルを読み込む条件
検証に使ったエクセルと質問
検証は、軽い「汚れ」から始めました。結合セルを一部に使った表をChatGPTに読ませて集計させると、問題なく正しい集計が返ってきたため、仕掛けの数を少しずつ増やしていきました。
最終的にできあがったのが、冒頭の画像の「長年の運用で崩れた、現場でよく見かけるエクセル」です。
AIの実力を確かめるなら、きれいなサンプルより、自社で実際に使っている崩れた表で試すほうが判断の材料になります。
仕込んだ「あるある」
このエクセルには、中小企業のエクセルによくある作り込みを盛り込みました。まず、表の形と入力の書式は次のとおりです。
- セルを方眼紙のように細かく区切り、罫線で作表
- 見出しは二段に組み、左端の「計上月」は表全体を縦に一つのセルに結合
- 日付は「2026/4/3」「4月8日」「R8.4.15」と行ごとに書式がばらばら
- 単価や金額は、数値の行と「45,000円」という文字列の行が混在
得意先名も大きく揺れています。「(株)あおぞら商事」と「あおぞら商事」、半角カナの「ヒカリ物産」と「光物産株式会社」が、同じ表に並びます。
状態の管理は、さらに入り乱れています。未入金や保留を次のように表す行が、決まりなく混ざっています。
- セルの色で表す行
- 「〇△×済」のマークで表す行
- コメントで補足する行
ほかにも、集計を間違えやすくする仕掛けを入れました。末尾の「総合計」は、あえて明細と合わない数字にしています。
- 取り消し線を引いただけのキャンセル行
- 4月度の表に紛れ込んだ3月・5月の取引
- 末尾に、手で計算した「総合計」

投げた質問
このエクセルに対して、事務の現場でよくある質問をぶつけました。いずれも、人が手作業で集計するとミスが起きやすい質問です。
- 4月の売上はいくらか?
- 未入金の取引と合計額はどれか?
- 得意先ごとの売上はいくらか?
- キャンセルされた取引はあるか?
- 末尾の手打ちの総合計は正しいか?
検証結果の一覧
先に、仕込んだ仕掛けとChatGPTの答えを一覧にします。七つのうち六つは正しく処理し、答えが割れたのは色とマークで管理した未入金だけでした。
| 仕込んだ仕掛け | ChatGPTの答え |
|---|---|
| 結合セル・二段の見出し・方眼紙の作表 | 惑わされず、正しく集計した |
| 月の混在(3月・5月が4月度の表に紛れ込み) | 4月分だけを正しくより分けた |
| 文字列で入力した金額(「45,000円」など) | 数値として正しく拾った |
| 得意先名の表記ゆれ・半角カナ | 同じ会社としてまとめた |
| 取り消し線だけで示したキャンセル行 | 書式を読み取り、集計から外した |
| 明細と合わない手打ちの総合計 | 計算し直して、食い違いを指摘した |
| 色とマークと凡例が矛盾した状態の管理 | 計算は正確だが、前提しだいで答えが割れた |
最後の一行だけが、すっきり決まらなかった項目です。そして、その原因はAIではなく、ファイルの作り方にありました。
ChatGPTはほとんどの仕掛けを見抜いた
ChatGPTは、当社が仕込んだ仕掛けのほとんどを理路整然と処理しました。質問ごとの答えを、画面とあわせて紹介します。
月の混在と文字列の金額
4月の売上を尋ねると、ChatGPTは3月・5月分の紛れ込みを除き、文字列で入力された金額も拾いました。そのうえでキャンセル行を計算から外し、正しい合計を返してきました。
日付の書式がばらばらでも、月をまたいだ行を見分けています。手作業なら間違えやすいところを、淡々とより分けた形です。

得意先名の表記ゆれ
得意先ごとの集計では、「(株)あおぞら商事」と「あおぞら商事」、半角カナの「ヒカリ物産」と「光物産株式会社」を、同じ会社の可能性が高いものとしてまとめました。
表記ゆれをそろえる作業は、人がやっても神経を使います。AIが「同じ会社の可能性が高い」と断ったうえでまとめている点も、確かめやすい答え方でした。

取り消し線で示したキャンセル
当社がいちばん驚いたのは、取り消し線だけで示したキャンセル行の扱いです。ChatGPTは「金額は入っているが、取り消し線が引かれているので除外すべき」と判断しました。
セルの値には表れない、見た目だけの情報まで拾っています。文字だけを読んでいるなら、この行は売上に数えてしまうところでした。
手打ちの総合計とファイル名
表の最後の行にある手打ちの総合計についても、ChatGPTは明細から計算し直し、「実際の合計と一致しません」と食い違いを指摘しました。人が入力した数字をうのみにせず、疑ってみせたわけです。

さらにChatGPTは、頼んでいないのに「このファイルは意図的にぐちゃぐちゃに作られており、別シートの重複や月の混在、表記ゆれがあるため誤集計になりやすい」と、検証の意図まで言い当ててきました。
ただし、当社はファイル名に「ぐちゃぐちゃ版」と付けていたので、その名前から察した可能性もあります。AIはファイルの中身だけでなく、ファイル名も手がかりにして読んでいると考えたほうがよさそうです。
答えが割れたのは未入金の合計
ここまで正確にエクセルの中身を読んだChatGPTでも、当社の想定と違う答えを返した質問が一つだけありました。それが「未入金の合計額」です。
色とマークで基準が分かれた
当社は「赤いセルが未入金」という想定でデータを入力しました。一方でChatGPTは、色ではなく「〇△×済」のマークを手がかりに、未入金を判定しました。
その結果、当社の想定が約80万円だったのに対し、ChatGPTの答えは約200万円と、倍以上の差が出ました。
ただし、これはChatGPTの計算ミスではありません。ChatGPTの集計は、自分で選んだ基準のもとでは1円も間違っていませんでした。

ファイルに正解がなかった
冷静に見返すと、ファイルは三重に矛盾していました。問題は、ChatGPTではなくこのエクセルの側にあったのです。
- タイトル下の注記は「赤=至急」、別シートの凡例は「赤=未入金」
- 赤いセルなのにマークは「〇」と、同じ行で色とマークが食い違う
- どの色やマークが何を表すか、ファイル全体で統一されていない
これでは、人が見ても未入金がいくらかは確定できません。つまり、当社が作ったこのファイルには、もともと「未入金の正解」がなかったことになります。
ChatGPTは、矛盾したファイルの中から一貫した基準を一つ選び、「この前提で集計しました」と明示しました。そのうえで、別の基準でも集計できると代わりの案まで添えてきました。
あいまいなデータを扱うときの振る舞いとして、適切だったと当社は考えています。前提を書いてくれたので、どこで食い違ったのかをすぐに突き止められました。

エクセルを読み込めるAIと条件
今回の検証は、ChatGPTだけで行いました。Claude・Gemini・Copilotでは試していませんが、エクセルを読み込んで分析する機能は、どれも公式に案内されています。
各社のヘルプで確かめた、読み込みの方法と主な条件は次のとおりです(2026年9月時点)。無料で試せるかどうかも、あわせて載せました。
| AI | エクセルの読み込み | 主な条件・上限 |
|---|---|---|
| ChatGPT | .xls・.xlsx・.csvをアップロードして分析。計算はPythonのコードを書いて実行する | 無料プランでも使える(無料は1日3ファイルまで)。表計算ファイルは約50MBまで |
| Claude | CSV・XLSXをアップロードして分析 | XLSXは設定の「コード実行とファイル作成」がオンのときだけ読み込める。無料プランを含め既定はオン(Team・Enterpriseは管理者が設定) |
| Gemini | スプレッドシートをアップロードして分析し、グラフも作れる | 無料でも使える。1ファイル100MB、1回に10ファイルまで。有料のGoogle AIプランで上限が上がる |
| Copilot(Excelの中) | Excelの中で計算・数式・集計・グラフ・ピボットテーブルを作る | 個人はMicrosoft 365 Personal・Family・Premium、法人はCopilot Businessを付けたプランなど。OneDriveに保存し、自動保存をオンにする |
| Microsoft Copilot(アプリ) | XLSX・CSVをアップロードして質問する | 1ファイル50MB、1回の会話に20ファイルまで |
ChatGPTが表の計算に強いのは、読み取った数字を暗算するのではなく、Pythonのコードを書いて計算しているためです。答えが怪しいときは、どう計算したかを聞くと確かめやすくなります。
業務のエクセルには、取引先名や金額など社外に出したくない情報が含まれます。アップロードする前に、生成AIに社内データを渡していい範囲を社内で決めておきましょう。
エクセルの整形はもう要らないのか?
「AIでここまで読めるなら、表をきれいに整える必要はもうないのでは?」と思われた方もいるでしょう。当社の答えは「整える理由は変わったが、整えることは今も必要」です。
少し前まで、エクセルを整えるのは「AIが正しく読めるようにするため」でした。今回の検証を見る限り、多少作り込まれた表でもAIは読めるため、AIのためだけに整える必要は小さくなっています。
それでもChatGPTの公式ヘルプは、1行目に見出しを置く、1枚のシートに関係のない表を並べない、空の行や列でデータを区切らない、という形を勧めています。整った表のほうが、読み違いの余地はさらに減ります。
当社が整形をおすすめする理由は、人と業務の側に移りました。理由は三つあります。

答えを人が確かめられる
今回の検証のとおり、AIが返す答えは高い確率で正解です。とはいえ100%ではないため、人が確かめる余地は残ります。
表が整っていれば、目視やフィルターで簡単に検算できます。整っていないままだと、AIの答えが合っているかを確かめる手段がなく、誤った数字に気づけないおそれがあります。
色やマーク頼みの管理は答えを壊す
今回もっとも象徴的だったのが、未入金の集計です。色とマークと凡例がばらばらだったため、AIがどれだけ正確に計算しても、答えが約80万円と約200万円に割れました。
これはAIの限界ではありません。データの一貫性が失われると、AIでも人でも、一つの正解を出せなくなるという話です。
状態を色だけ、マークだけで表す運用は、そのルールを知っている人がいる前提でしか機能しません。担当者が辞めた時点で意味が失われ、引き継いだ人には判断できなくなります。
未入金なら「未入金」と、一つの列に文字で書いておきます。それだけで、AIにとっても人にとっても、正解が一つに定まりやすくなります。
入金状況の列の記入例は、次のとおりです。
| 日付 | 得意先 | 金額 | 入金状況 |
|---|---|---|---|
| 2026/4/3 | あおぞら商事 | 45000 | 未入金 |
| 2026/4/8 | 光物産 | 120000 | 入金済 |
| 2026/4/15 | あおぞら商事 | 80000 | キャンセル |
日付と金額は書式をそろえ、得意先名は一つの表記に決めておくと、表記ゆれや文字列の金額も起きにくくなります。業務のルールをそろえてからAIに任せる順番は、業務の属人化解消の進め方で詳しく紹介しています。
繰り返す作業は整った表が自動化しやすい
一度きりの集計なら、整っていない表をAIに読ませて終わりでも構いません。けれども、毎月・毎週と繰り返す定型業務になると話は変わります。
整った表は、繰り返しの処理や自動化がしやすく、結果として作業全体が楽になります。整えたデータをAIに集計させる具体的な手順は、次の記事で紹介しています。

集計の作業そのものを任せたい場合は、次の記事が参考になります。「整える→集計する→自動化する」の順に読むと、エクセル作業をどこまで省けるかが見えてきます。

AIの実力は自社のファイルで確かめる
最後に、今回の検証で当社がもっとも面白いと感じた点に触れます。それは、AIの実力をめぐる評判が、実際の性能とずれていることです。
当社は「ここまで崩れた表なら、さすがに読めないはずだ」と事前に予想していましたが、その予想は次々と外れました。原因の一つは、AIに関する情報に古いものが多く残っていることだと考えられます。
「AIはエクセルが苦手」という解説記事は数年前のものが大量に残る一方で、モデルの性能はその後も更新され続けています。
過去の「できなかった話」のほうが情報として多いと、AI自身も古い評価を正しいものとして返すことがあると考えられます。
反対に、作り手の発表は性能を高く伝えます。たとえばAnthropicは2026年6月の記事「When AI builds itself」で、2026年5月時点で、自社に取り込むコードの80%超をClaudeが書いたと公表しました。
こうした数字も、作り手の立場から出されたものです。作り手も、使い手も、批判する側も、立場によってAIの見え方は大きく変わります。
評判をそのまま信じるより、自社のエクセルでAIに集計させ、答えを検算してみるのがいちばん確かな判断材料です。
まとめ
- ChatGPTは、結合セル・月の混在・表記ゆれ・取り消し線・手打ちの総合計を正しく処理した
- 未入金の合計だけ割れたのは、色・マーク・凡例が矛盾し、ファイルに正解がなかったため
- 表を整える理由は「AIのため」から「人が確かめ、引き継ぎ、自動化するため」に変わった
今のAIは、結合セルも、二段の見出しも、月の混在も、表記ゆれも、取り消し線という見た目だけの情報まで、かなりの精度で読み取れます。「AIはエクセルが苦手」という前提は、過去のものになりつつあります。
それでも、表を整える作業には意味があります。今回いちばんはっきりしたのは、記録の仕方がばらばらだと、AIがどれだけ賢くても答えが定まらないということでした。
まずは一度、自社で実際に使っているエクセルで、今のAIがどこまでやれるかを試してみてください。退職者が残した数式やマクロの読み解きも、AIに解読させる方法で紹介しています。
当社では、エクセルの整理から、集計の自動化、業務に合わせたAIエージェントの構築まで、中小企業のご相談を受け付けています。「どこから手をつければいいか分からない」という段階でも構いませんので、お気軽にご相談ください。


